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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

通信第3号


第3回 公園の鳩にえさをやるべきか。

 「読みにくい」「わかりづらい」と皆様のおしかりのお言葉で恐縮するばかりの嚮心塾通信第3号です。今日は一念発起、読みやすくするためにインタビュー形式にてお送りします。テーマは「公園の鳩にえさをやるべきかどうか」です。では、早速鳩さんにインタビューしてみましょう。

僕「こんにちは、鳩さん。」
ハト「クルックー。」
僕「今日は、あなたがえさをもらうことについて、どのように考えていらっしゃるかをお聞きし  たいのですが…。」
ハト「クルックー。」
僕(あ、しまった。鳩語じゃないと通じないな。よーし…)
僕「クルックー。」
……………

ということでインタビューは無事終わりました。以下にそのインタビューの日本語訳を載せます。本当に鋭いことを言う鳩さんで、インタビュー後、僕自身非常に考えさせられ、反省させられました。


僕「鳩さん、こんにちは。今日はいくつか質問や話し合いをしたいのですが…よろしいですか。」

ハト「うん。あんまり時間がないけど、手短にならいいよ。」

僕「手短になればいいのですが…。お聞きしたいのは、先日ここの公園(上野公園です)でハトさんのお仲間にえさとしてパンをあげようとしたら、公園に『ハトにえさをあげないでください。フンの害がひどいのです。』と書いてあったので、あげた方がよいかどうか悩んでしまい、結局やめました。ハトさんはこのような場合、僕にどうしてほしかったですか。」

ハト「そりゃ、えさをくれた方が有り難いよ。」

僕「でも、ハトさん達が所かまわずうんちやおしっこをするのが問題なんじゃないですか。トイレでとはいいませんし、鳥用のトイレなど在りませんが、きちんとどこか決まった場所でしていただければ、フンの害も問題にならないように思いますが。」

ハト「バカいっちゃいけないよ。何でおれ達がどこでもフンをすると思ってるんだ。果物の種を広い範囲で様々なところにばらまいて、そうした植物が芽を出すときに一カ所に固まらないためじゃないか。その種と共に俺達のフンもあるから、そのフンが肥料にもなるじゃないか。こうやって俺達は果物や木の実を食べさせてもらったお礼をその植物にしてるのさ。それに比べて、おまえら人間は何だい。果物の種だって、全部ゴミとして燃やしてしまっているんだろう。果物を食べさせてもらった植物に何の恩返しもしてないじゃないか。その上、無駄な燃料を使いやがって。最近じゃ、おまえ等がいろんなものを燃やしすぎて、地球温暖化とかいうのだって起きてるそうじゃねえか。」

僕「なるほど。おっしゃるとおりですね。耳の痛い話です。しかし、公園の中では実際にフンがたくさんあってこれを掃除するのがとても大変なのです。この点についてはどのようにお考えですか。たとえば、アスファルトやコンクリートの所は避けて、土の地面を選んでフンをしていただければ、こちらとしても助かります。」

ハト「もう、本当に鈍くさいな、おまえは。いいか、よく考えてみろよ。そのアスファルトやコンクリートを勝手に、あらゆるところに敷き詰めたのはいったい誰だ。おまえら、人間だろう。それを敷くときにたとえば、俺達ハトに『すみません。車を走りやすくするために、あるいは靴に泥が付かないようにするために地面をすべてコンクリートで覆いたいのですが、よろしいでしょうか。』とでも聞いたのか。聞いてないだろう。そうやって勝手に敷き詰めておいて、俺達が今まで通りフンを落としたら、汚れるっていって文句を言ってるんだぜ。おかしいだろう。」

僕「たしかに…。」

ハト「もちろん、仮にそうやって聞かれたとしても、俺達は絶対に反対したけどな。だって考えてもみろよ。俺達が果物の種と一緒にフンを落とせば、植物も育つし、土の中の栄養分だって増えていくだろう。それに比べておまえらがやっているように地面をすべて覆ってしまったら、その下の土は栄養分もなくなるし、植物だって生えてこなくなるんだぜ。長い目で見て、どっちが地球環境のためになっているのか、頭の悪いおまえらだってわかるだろう。しかもだ。おまえらがそうやって地面を覆う理由が…なんだっけ。車が走りやすい、とか、靴が汚れないとか…はあ?それって、そんなに大事な理由か。」

僕「そういわれてみると…。本当に自分たちの愚かさに恥じ入るばかりです。ただ、質問のポイントがずれているのでもう一度質問し直させてください。僕の最初の質問はあなた達にえさをあげてもよいのかどうかでした。なるほど、フンの害を理由にしてえさをあげるべきではないと考えるのは、人間の身勝手であることはよくわかりました。しかし、そうでなくてもえさをあげるべきではないとは考えられませんか。」

ハト「なんでだよ。エサをとりにくい環境を作ったのはおまえら人間じゃないか。おまえらのせいでエサを探しても探してもとれなくなって、俺達は仕方なくおまえらのくれるエサを食べているとも言えるんだぞ。」

僕「まあ、落ち着いて聞いてください。たとえば我々人間がエサをやるせいで、鳩仲間の中でみんな無気力になったりはしていませんか。エサを取りに行くのが面倒くさい、だの、どうせ待ってれば人間がエサをくれるんだから、取りに行かなくたっていいじゃないか、とか…」

ハト「ううん…。確かに、それはあるな。」

僕「実は人間同士でも、そういう問題で本当に困っているのです。豊かな国が貧しい国の人々に対して申し訳程度にお金を渡しているのですが、そこでも同じように援助に頼ってしまって貧しい国の人々が自分たちで働かなくなるということが多いのです。あるいは一つの国の中でも、生活保護をすれば、それに甘えてしまって働かなくなるということもとても多いのです。もちろん、それは貧しい国の人々が悪いというのではありません。立場が逆になれば、日本人だってそうなるでしょう。しかし、人間もハトもそのように楽な状況に甘えて努力を忘れてしまう弱い動物だとしたら…どのようにお互いに助け合うということが出来るでしょうか。」

ハト「ううん。困ったな。おまえさんらの方で、何か工夫したりはしていないのかい。」

僕「一応、しています。たとえば、何にでも使えるお金をポンと渡すのではなく、物や建物をつくってそれを渡すことで他の無駄な物を変えないようにしたりしています。また技術指導や教育で一人一人に自分たちの力で生きていけるような力を付けてもらおうともしています。しかし…こうした援助の仕方はお金もよけいにかかるだけでなく、何より時間と人手がかかるので、まず援助をしている側がいやがります。」

ハト「どういうことだ?」

僕「つまり、貧しい国を救うために100万円払え、というのと、貧しい国を救うために1年間向こうで働けという二つの選択肢があれば、ほとんどの日本人は前者(前の方)を選ぶということです。金で解決できるのであれば、わざわざ自分が不自由な思いをしたり、ひょっとすると病気になって死ぬかもしれない方をとる人は、よほど向こうで苦しんでいる人のことを考えている人に限られてしまうということです。実際には人を送らねば解決できない問題が向こうに山積みで金を送るだけでは決して解決にならないとしても、このような事情から援助はお金がメインになってしまっているのです。」

ハト「何ということか…。しかし、それを俺達だってひとごととは言えないな。」

僕「ええ。あなた達だってその日本人のまくエサを喜んで食べているじゃないですか。」

ハト「…では、俺達にどうしろ、と言うのだ。おまえらのせいでエサもとれなくなり、フンも喜んで出来ない。かといってエサをもらえば俺達はどんどん家畜化していく。フンをすれば、フン害だといって怒られる。俺達に絶滅しろとでも言うのか。」

僕「……。」

ハト「ほら、そうやって黙るなよ。おまえらは、『絶滅しろ』とは言わないんだ。ただ、そうやって自分の好き勝手やって、そして俺達が絶滅したら、絶滅した後で悲しむんだろう。心からな。しかし、そんなことはけろっと翌朝には忘れて、また元気に暮らしていくんだろう。ずるいのだよ。ずるすぎる。俺達の絶滅のニュースはおまえらのひまつぶしのためじゃない。」

僕「……。」

ハト「俺達に対してだけじゃないだろう。さっきの貧しい国の人々に対してだって、同じなんじゃないのか。そのままのやり方では決して助けられないなんて、みんなとっくに知っているんだろう。知ってて、でも見て見ぬ振りをして、そして申し訳程度に助けて、そして絶滅したら、かわいそうだと言って泣くんだろう。でも泣いた次の日は、またけろっと忘れて、元気にプレステでもやるんだろう。人間は涙を流せるが、その涙は、おまえらの心を洗い流すためにあるのか。もっと他のことのためではないのか。」

僕「…それでも…何とか共に生きる道はないか、探していきたいのです。」

ハト「おまえの『エサをやるべきか』という質問も、そういうつもりなのか。でも、おまえらがそうやって議論している間に俺達も貧しい人々もバタバタ死んでいく。それでも、その質問を考えることが大事だというのか。」

僕「死んでいくことは何とかしていかなくてはならない。しかし、それでもなお、このことを考えていかねばならない。共に生きていくためには。」

ハト「話にならん。」
…………

インタビューはここでおしまいです。しかし、ハトに投げかけられた問いかけに何とか応えうるためにも、自分の立場からの押しつけや自分の立場からの思いやりを越えて、本当に相手のことを思いやっていいけるように頑張っていかねばならないと思っています。
                                         平成18年1月21日  
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