嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

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無知を笑っていてはいけない。

 今回の東日本大震災で、特に福島の原発事故後には、様々な専門家の方がテレビや新聞に出て解説をしてくれました。その需要は今でも、続いています。僕自身もまた、「原発など、人間の乏しい知恵と有限な存在ではどだい無理なのだ。つまり、原子力発電とはその無理を押して行われていることなのだ。」と昔、高木仁三郎さんの著書を何冊か読んで結論づけてから、しばらく不勉強のまま放置していたので、とても勉強になりました。
 しかし、僕がテレビで見ていて気になったのは、たとえば震災後、首都圏でおきた物の買いだめなどに対し、否定的、もっと言葉を悪くすると、冷笑的な態度が多かったことです。もちろんそれ自体は愚かしく、無知のなせるわざであるかもしれません。しかし、そのようなニュースについて、私たちが考えねばならないのは、「どうしてこのようなことが起きてしまうのか。」であると思います。
 
 あるいは、放射線量についての人々の過敏な反応を笑う(「それよりタバコや飲酒(最近の話題では携帯電話)の方がよっぽど発がんリスクが高い」云々)知識人達にも僕は腹が立っています。彼らは現在の医学について、多少情報を得やすいだけです。そもそも、その現在の医学自体が、どれほどまでがんのことを理解できているというのでしょうか。小指の爪の先ほどのリスク想定に基づいて原子力発電を擁護していた人々が、また小指の爪の先
ほどの人間のがんに対する医学的知識を振りかざしては冷静になることを主張しているのを見ると、僕は悩んでしまいます。もちろん、ヒステリックな反応をするよりは、冷静な反応の方が良いとは思います。しかし、何も信じられないというパニックを、何かを信じる人々が止めたとしても、それは単なる理不尽な「蓋(ふた)」になっているかもしれない、と思っています。

 大切なのは、そのように「本能的」に見える多くの人々の反応もまた、(戦略的には失敗が多いとしても)事実としては、あながち間違いではないと思えるかどうかだと思います。そのように自らが信じるもの(科学)に対して、その信仰を疑い、歩み寄ろうという立場をとれる人たちの言葉でなければ、やはり本当には科学の有用性も伝わりにくいのかもしれません。その意味では、決して人々の無知を笑ってはいけません。むしろ、他の人の無知を少しは改善できるようにその人々に語りかけることができていないのは何故かを自問自答することが、専門家には大切な姿勢なのではないでしょうか。

 そして、教育関係者は、莫大な学校での子供達への教育、さらには学校が終わった後の塾通い、それらの全てが、一人一人が(とりあえずは)理性的な行動をとることに何ら繋がりえていなかった、という事実に対して、猛省が必要なのだと思います。高みの見物をする前に、科学的知見の効用と限界とを冷静に分析する姿勢を教育が大多数の人々に与えられていないことを、もちろん僕自身も含めて、猛省しなければなりません。人々の無知を笑って、自分の知を誇る人間など、僕は何の役にもたたないと思っています。人々の無知を無知でなくしていくことが、教育なのですし、何かについての「知」を持つものが「無知」なものを笑うということは、その「知」を持つ人の存在意義が社会全体にとってはほとんどない、ということでもあると思うからです(直接的であれ、間接的であれ、ある部分についての特化した詳細な知識をもつ人々というのは、ものを作るなり、家事をするなり、様々な活動を他人に依存しなければそのような知識を持ち得ていないわけですから、自分が知っていることについて無知な人を笑う資格がありません。ある人がある分野について無知なのは、そのことについてよく知っている自分自身の努力が足りていないからです)。

もちろんそのような取り組みは、同輩の知識人からも、あるいは自分が教えようとしているその相手の人々からも、双方から異端視され、石もて追われる、ということになりがちなのが人間の歴史であるのかもしれません。その学問や文化の価値を分からない人に、その価値を伝えることほどつらいことはないですし、逆にそれを伝えられる側にとっても自分が「わからない」と放棄したものを話されることは、やはり苦痛であるからです。それでもその「断絶」を自らの身をもって埋めていこうとする姿勢が、僕は何よりもこの社会に著しく欠けているが故に、大切であると考えています。自分がある分野について詳しく、しかもそれが重要であると考えているとき、他人の無知を笑う暇があるのなら、それを少しでも伝える努力をしていかねばならないのだと思います。
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