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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

中高生の教育でタブレットを有効に活用するただ一つの方法。

教育のことばかり、書きたくないのです。。もっと書きたいことが山程あり、「こんなアホな大法螺吹いてら!」というのがこのブログの存在意義でもあると、せめて自分だけは思っています。ただ、普段から教育のことばかりに携わり、あまりにもひどい教育現場の様子(つまり学校の様子ですね)を見せられ続けていると、言いたいことだらけになってしまい、一度書き始めると止まりません!!ということで今日も教育ネタですみません。

さて、ICT教育のスローガンのもとに、都内の私立はどの中学でも高校でもタブレットを導入しています。しかし、このタブレットの使い方がひどい、というか、「こんなの、絶対勉強できなくなるだろ!」というような使い方ばかりを見せられるために、ビビります。必然性のない使われ方のためにタブレット端末代という高い経済的負担を親御さんに強いることも大問題ではあるのですが、もっとひどいところになると、「こんな使い方してたら、そもそも勉強ますますできなくなるんじゃない?」という使い方になってしまっています。
いくつか実際に目にしたケースを挙げていきたいと思います。

①問題集がタブレットの中に入ってる。
「何冊も重い問題集を持ち歩かなくていい!」以外に何のメリットがあるのかわかりません。。見にくいし、使いづらくて高校生たちが苦労しています。ただ、この場合、ノートに解くのでまだ使いづらいこと以外はデメリットが少なめです。

②問題集がタブレットの中で完結している。
解答するところまでタブレットでの操作でおしまいのものです。選択問題を選んだり、といったものですね。これはかなりひどい影響が出ていて、中高生が勉強するのに紙とノートを使わなくなってしまっています。いわゆる「手を動かす」ということがとても減ってきてしまっている分、さらっと読んでおしまい、とかになってしまっています。

③教科書をタブレットで見る。
これは立体図形の表示とかではイメージしやすいものとかもあってそこは優れているのですが、全般的に手を動かさなくなる、わからないところを読み返す、ということができなくなりがちです。

これは僕自身もタブレットで電子書籍で勉強するときとかにも感じるのですが、紙の書籍と比べてわからないところを読み返す頻度が電子書籍の場合どうしても落ちるように体感しています。スクロールは紙をめくるよりも容易な操作であるのに読み返す頻度が減る、というのは面白いものです(おそらくスマホで大量の薄い情報を流し読みするのと同じモードになってしまうのでしょう。もうちょっと内容を丹念に追わなければならない本でもそう振る舞ってしまっては、結局habitの方を優先して理解の速度が追いついていないことを犠牲にしてしまいがちであると思います)。

こうした効果は教科書や問題集でもやはり出てしまうのではないか、と思っています。つまり読んでいるけれども理解していない、読むのが「速すぎる」ことで、むしろ理解できていないことがあるままに先に進んでしまうということが増えているように感じています。

さらに言えば、ノートと鉛筆を使わないタブレット学習なんか、最悪も最悪です。これも、たとえば大学生がタブレット端末で勉強するのにはそれなりの利点があって、大学の教科書は分厚い本が多い、とか、高校生までに大学受験で手を動かして勉強する習慣がついている、とかそういったことによって初めて効果的で効率の良い学習をタブレットを使って行うことが可能になっていると思います(逆に言えば、そのような習慣がついていな子は大学生でも厳しいです)。

しかし、中高生で既にその基本ができている子の方が圧倒的に少ないわけですから、そのような子たちがタブレットの導入によってますます「手を動かさないで勉強した気になる」という状況になってしまっています。これは特に中学入試で比較的入学しやすい私立中などでは進学実績以外の何らかのアピールとして「ICT教育の充実」なんかを売り文句にしているせいで、思考のプロセスを丁寧に書くことのできない層の子たちが中学入学後に「書かない」勉強を与えられ、しかもそれが奨励されるので悲惨なことになっている、というケースも目にしています。

たとえば大学入試は少なくとも当面は「紙の文章を読み、答案用紙に書く」というスタイルから変わるわけがないのですから、むしろこのご時世に「うちの学校はタブレットとか使いません!全部紙です!!だって入試はそうじゃないですか!!」とかいう姿勢を保護者の方に主張する学校とかは僕はとても好感が持てますし、実際にそちらのほうが勉強の力もついていくと思います。またよけいなお金もかかりません。しかし、同調圧力の強い日本では「流行り物には乗っておけ!」「むしろタブレット端末使わなくて、『おたくの学校はタブレット使わないなんて遅れてるんじゃないですか?』という父母からのクレームが怖い。。」といった事情で導入してしまい、本当に学習効果が上がるのかどうかよくわからないものの、辞めるのも怖くて辞められない、という状況なのでは、と見ています。非常に大きな問題ですよね。。


と、ここまでを踏まえてタブレット端末は全くいらないかといえば、中高でも意味のある使い方ができる方法が唯一つだけあると思っています。それは、「授業を動画に収録して全て動画で授業を聞く」です。登校の必要もなくし、教室に来る必要もなくす。授業動画は何回でも繰り返し再生できるようにし、もちろんわからないところを聞く時間を週に一回は作り、そこで先生がそこまでの授業動画についての質問受けをする(そこだけ必ず登校する)、という方式です。

もちろんそうすると、「じゃあスタディサプリでいいじゃん!」という話になります。また、実際にスタディサプリの予備校の先生の講義を超えるレベルの授業動画を作れる中高の先生方が何人いるのか、という問題もあります。しかし、一方で多くの人が見る授業動画とその学校の子達の学力レベルが把握できている先生の授業動画とを比べれば、ターゲットが絞りこめる分だけ、後者も意味のある授業動画が作れるはずです。そのようにシフトすれば今よりははるかに有効に活用できると思います。

即ち、現在の中高でのタブレット端末の使い方というのは、「授業」という受動的に情報を吸収する時間であるが故にタブレットを使うのに一番適切な時間でタブレットを使わないままに、「自主学習」という実際に手を動かすことで初めて意味のある部分にタブレットを用いている、という倒錯した仕組みで運営されている結果として、「より手を動かさない勉強」へと中高生を追いやってしまっているのだと思います。そうではなく、「授業を動画でタブレットで見て、問題集は実際に紙とノートで勉強する」というようにするだけで、だいぶ改善するのではないでしょうか。

こうした悲惨な現状を見るに、やはり私立中高の勉強についても戦略的に全体をデザインできる先生がいるかどうかが大きな分かれ目なのだな、ということを痛感します。そういう仕事もやっぱりしていかないと、ですね。。これもまた、考え、実行に移せるように何とか頑張ります。

(追記)
と書いた後に友人から、日本の教育学の泰斗である佐藤学先生が「ICT教育によって学力が上がるという研究結果はほとんどない」と仰っている記事を紹介されました。有料記事ですが、リンクを貼っておきます。「さすが佐藤学先生!僕と同じ問題意識とは!」といういつものボケは、大切な(別の)友人の師匠にはなかなか言いにくいのですが、そこを頑張って言っておきます!

https://www.asahi.com/articles/ASP5T3FC0P5TULBJ003.html
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