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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

浪人制度を守ろう!

もはやテレビタレント化した東進ハイスクールの林修先生ですが、そうは言ってもコメントの一つ一つはそこそこクレバーさを失ってなくてかえって信頼を高めているからこそ、テレビ界でも、もちろん本業の方でも長続きしているのでしょう。林修先生は確かに的を外していないコメントが多いと僕も思いますし、その実力で稀有な立ち位置を維持されているのだと思います。ただ、そんな彼のコメントの中で、珍しく僕が全面的に違和感を感じるのは、「大学受験で浪人制度を禁止しよう!」という提言です。これに関しては僕は真っ向から反対です。

「高校の勉強なのだから高校3年間勉強すれば良い。浪人生はズルい!」という彼の主張は、それを阻害する様々な要因が高校生の外部にも現実にはあることを無視しています。たとえば高校生が部活を自発的にやっているかといえば、たいていの場合、「入ったはよいものの、あまりに練習が忙しく勉強もできずに、さらにはそこからやめようとしようものなら顧問に激詰めされる」というブラック部活が多いです。そのような部活に入ったら最後、高3の引退までは部活で忙しく定期試験勉強もおろそかなままに受験生になることになってしまいます。そのような受験生が「入れる大学に入れば良い」というのはあまりにも無責任な話です。(これは運動部だけでなく、吹奏楽部や合唱部などの文化系の部活でも強豪校は本当にひどいです。まるで生徒の将来に大学受験など一ミリも関係ないかのような部活三昧で高校生活を潰し、そしてその結果何も勉強ができていないことには責任はとらないわけですから)。

また、高校に通う間はバイトで家庭の生計を支えながら勉強するしかなく、浪人してから本格的に勉強して学費の安い国公立大に行きたい!という子もいます(塾でもそのような子を何人も見ています)。一人一人が高校3年間の中で十分な受験準備ができるかどうかにはこのように本人の努力以外の要素も必ず入ってくるのにも関わらず、高校3年間の努力だけで大学入学を決めてしまえば、それはやはり受験勉強だけに専念でき、さらには予備校や塾などに通い放題の裕福な層がその後の人生でもアドバンテージを維持できることになるでしょう。それを是としてよいのでしょうか。この問題に関しては、浪人制度を廃止するのは明らかに格差の再生産に繋がってしまうと思います。

このようにやむを得ない事情で高校生活の中で勉強ができない場合だけでなく、高校生が高校生活を自分の判断で勉強以外に費やしたとしても、それでもやはり僕は浪人制度の廃止には反対です。高校生活をどのように過ごしたとしても、一人一人にやり直しの機会があることが大切だと考えています。そのやり直しの機会を奪えばどうなるかと言えば、結局社会の中でいわゆる「高学歴」になる層がどんどん集団として多様性を失っていくことになります。それは結果として社会全体にとっても不利益でしかないでしょう。

たとえば現役で難しい大学に合格した人たちは浪人した人たちのことを「サボっていたんだから自業自得だ。」と今でも見なしがちです。今でもこのような偏見が強いのに、実際に浪人制度の廃止がなされればさらに、行く大学までが高校3年間の努力だけで決まってしまうことになり、当然上位の大学に入った学生たちが下位の大学に入った学生たちを見下すことにさらに拍車がかかることになるでしょう。そのようにして社会的分断は完成してしまうのではないか、と思います。

minorityに対するaffirmative action(少数派優遇措置)に対して一番批判的であるのは、self-madeな(優遇措置なんかなくても社会的に成功した)minorityである、という話は有名ですが、人間は自らの想像力の欠如から、自分の努力によって獲得したと信じているものに対しては横暴であり、他の人がそれを得ていないということはそもそも努力が足りなかったのだ、と類推しがちです(たとえば首都圏から東大に入るよりも地方からmarchに入る方が難しいと思えるくらい、勉強のための環境が日本国内でも格差があると思うのですが、そのように自己の努力の成果を客観視できる東大生は稀です。)。浪人制度の廃止によって高校3年間の努力だけで大学が決まることになれば、脇目も振らずに受験勉強だけをしてきた視野の狭い人間だけがその後のキャリアにおいても優遇を受ける、ということになってしまいます(もちろん今でもその傾向は強いわけですが一層助長することになります)。このような社会は決して望ましいものではないと思います。

自身の視野の狭さに気づき、凝り固まった自己の価値観を打ち捨てて一からやり直したいと思える瞬間こそが、人間の一番美しい姿であると僕は思います。迷いなく選ばれた「正解」になど、何の意味があるのか。だからこそ、そのようなやり直しの機会を多くの若い人たちから奪う浪人制度の廃止には、僕は絶対に反対です。

とはいえ、世の中の風潮は確実にそちらへと動いていっています。英語の外部入試導入もその一つです。また医学部入試不正でも明らかになったように高校の時の成績を入試に入れる、大学入試における高校の調査書重視を進めようとする文科省通達など、やり直しのきかない社会にしていこうという動きは最近どんどん強くなっています。だからこそ、やり直しのきかない社会へと変わっていこうというこの動きに、一つ一つ我々が異を唱えていくことが大切であると思っています。心から自らの愚かさを反省し、やり直そうと思う人々の意欲を削ぐような社会であってはならない。切にそう思っていますし、そのように頑張ろうとする子たちの拠点になれるように、嚮心塾ももっと努力を続けたいと思っています。
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