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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

ノイズの必要性とその伝達可能性について。

塾では様々な学年の子が様々な勉強をしているので、他の子が僕に教わっている内容が当然耳に入ります。慣れるまではそれが嫌でイヤホンなどをする子も多いのですが、こちらでは最初はそれを許容しても慣れてきたら徐々にそれを外していけるように、と指導をしています。これにはノイズに対して自らの意志で集中を回復できる力を鍛えたい、という狙いがあるのですが、これはなかなか理解をしてもらえないことが多いです。

たとえば音楽を聞いたり、自分の部屋にこもったりして勉強することでそのようなノイズをゼロにしようとすれば、自分にとって不必要な音は聞こえなくはなり、一見「効率」も上がります。ただ、そこで落とし穴となるのは、そのようなノイズの存在しない環境というのは試験場では決して実現しえない、という事実を忘れているということです。試験中に隣の人の解答用紙をめくる音や鉛筆の書く音が気になってしまって集中を乱してしまった、という経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

外部からのノイズを完全に遮断することで集中の効率を上げることができたとしても、それは受験本番では通用しないような作戦でしかありません。だからこそ、仮に他の人の声や音で集中を乱されたとしても、その中で自分がどのように集中を取り戻すかの練習を普段からしている方が、より「やわらかい」集中、つまり集中が一旦乱されたとしても再び集中した状態に自分の意志で復帰しやすい集中ができるようになります。

もちろん、それが理想だとしても最初は他の人の話ばかり気になって、自分の勉強が手に付かない、ということではまずいでしょう。だからこそ、一人一人がどのように集中して自分の勉強に取り組めているか、その様子を絶えず見ながら一人一人に違うアプローチをしていくことになります。

逆にまた、塾の教室で生じるくらいのノイズに対してはもう対応ができているけれども模試ではなかなかうまくいかない、というときにはそのノイズのレベルを上げる練習もしていきます。入試問題を解く際に、放課後の街中のファーストフード店のように皆が大きな声でしゃべっているようなお店に入試問題を持っていってもらい、そこで時間を計って解く、というような練習をしていきます。このような中でも集中して問題を解けるところまで鍛えた受験生は、本番でのパフォーマンスがかなり高く、またどのような事態にも動じなくなります。

などと、色々苦労をして何とか受験生が受験本番で力を発揮できるようにあれこれと手管を尽くしているつもりではあるのですが、このような指導が意味を持つためには、結局僕が提案するこのような常識はずれのアドバイスが、有用であるということを信じてもらえるだけの信頼関係を受験生との間に築いていかねばなりません。この点でも、結局伝えにくい内容を伝えるためには、粘り強く人間関係を築いていくことこそが一番大切である、という事実に直面します。

その点で非常に興味深いのは、そのような「非常識だがしかし有用なアドバイス」を聞いてもらえるような信頼関係を構築していくためには、まずは「常識的で有用なアドバイス」を積み重ねていく必要がある、ということです。常識的で有用なアドバイスを積み重ねることで、こちらが決して奇をてらったり思いつきで喋っているのではない、ということを理解していってもらった上で、機が熟したときにそのように非常識だが有用なアドバイスを伝えていこうとしていかねばなりません(三国志やキングダムの世界で言う、正攻法と奇策の関係性のように、ですね!奇策だけを連発するのは、決して通じるわけがなく、したがってそのような将は名将ではないのでしょう。)。

そしてそのタイミングは一人一人違います。この直前期は(ノイズの必要性に限らず)そのようにじっくりと準備してきた言葉を、直前期だからこそ言わねばならないし、また言うことで伝達できる可能性がある時期でもあります。その点では、教師と生徒が同じ「合格」という目標を共有できているからこそ、そのような形式や慣習、常識を越えたコミュニケーションに立ち入れる瞬間があります。そこでの伝達可能性を信じているからこそ、僕はこの仕事をしているのかな、とも思っています。

振り返れば、僕は2,3歳くらいから「お前の言っていることはよくわからない。」と両親に言われて育ってきました。そのせいか、意味を込めて定型的以上のコミュニケーションを他者と成立させようとしても決して理解されないのだと、小中高と自分自身にブレーキをかけて生きてきたところがあります。それ故に、極限状況だからこそ剥き出しの意味を必要性に迫られることで伝えられる可能性をもつこの仕事は、僕にとっては生き永らえる目的であるとも思っています。

残りわずかですが、少しでも一人一人の合格可能性を上げられるように、徹底的に伝えるべきことを伝えていきたいと思います。
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