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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

過去のパンフレットの巻頭言です。その2

質より量?いえいえ、量から質です。

「何であの子は部活もやっててあんなに忙しそうなのに、成績もいいんだろう。」という疑問を持ったことはありませんか。勉強には何かしら秘訣というものがあって、それがわかっている子は短時間で大きな成果をあげ、わかっていない子は一生懸命やってもなかなかうまくいかない。そのように考えがちであると思います。それを心配して親御さんが 「この子に勉強のうまいやり方を教えてください。」という思いから、学習塾にお子さんをゆだねるというケースが大半だと思います。

そのニーズを踏まえて、いわゆる学習塾だけでなく、効果的な勉強法の紹介本、あるいは教材販売まで、「この秘伝の方法をマスターすれば、誰でも成績が上がります。」的なキャッチフレーズが多いものです。最近では脳科学者の茂木健一郎さんの本も有名ですね。しかし、僕が教えてきた限りでの結論から言いますと、勉強にうまい方法はありません。いえ、正確には魔法のようにうまい勉強方法をお伝えすることはできません。

 このような言葉を無責任に感じられる方も多いかと思います。「うまい勉強方法を子供たちに伝えることこそが学習塾の仕事じゃないか。」と。そして、もちろん嚮心塾でも、必死に子供たちの努力が成果へと結びついていくための勉強法を一人一人について模索し続けています。しかし、一人一人の理解の中で、「なるほどこの基本的なところがわかっていなかったので、全体としてよくわからなかったんだな。」という穴を発見し、埋めていくことはできるものの、何らかのうまい方法を伝えることで全体的にうまくいく、ということが起きるとはほぼ期待していません。一人一人に対して地道に一つ一つ、理解していないところの穴を埋めていき、そしてそのように穴が埋まっていく中で、各人の中で理解がつながっていくことを待つしかないと思っています。
というのも、やはり勉強に限らず、「やり方(方法)」というのは、一つの残骸にすぎないのですから、誰かにとって本当に有効な方法であろうと、それが自分の創意工夫の中から生まれていないのであれば、やはり身に付かないものです。「やり方のコツさえつかめばあとは何とかなるでしょ。」とお子さんに期待するのは、ある意味乱暴で残酷なことでさえあると思います。

 ですから、嚮心塾ではうまいやり方を最初からバンバン教えて、「ほら成績上がりましたよ。」というたぐいの指導をいたしません。まずは、塾に来るのが楽しいと思えるようになってもらって、できる限り塾で勉強をする習慣をつけていただきます。その中で、各塾生の自分なりの雑な勉強方法に対して、丁寧にしかし断固として訂正をしていきます。その意味では、「こんなに塾に行ってるのに、成績が上がらない。一体塾で何をしてるんだろう。」という疑問もよくいただきます。しかし、その壁を越えて通い続けていただいているお子さん方には「勉強するのが楽しい。」とか「なるほど。こうやって勉強していくといいんだね。」という発見と、それに伴う成果がでてきています。

 アンリ・ベルグソンは「人間にとって質と量との違いは注意力の違いだ。人間があるものを注意して観察をするとき、それは質を伴い、その注意力が減退するときその観察対象をもはや同質のものの繰り返し、すなわち量としてしか感じない。」と言いました。しかし、人間はそもそもそこに存在しないものに対して、注意を働かせようとするだけの想像力を持ちにくいものです。たとえば長い時間、自分が勉強を重ねてもなかなかにわからないという苦しみを抱えて初めて、それをどのようにしたらよいのか、という意識が働き始めます。そこで初めて、「量」は「質」への道を歩み始めるのです。
 
 言葉を換えれば、嚮心塾とは一人一人の生徒と教師との失敗の場です。苦労して努力しては、失敗に終わり、「なぜこのような失敗になってしまったのか」を徹底して反省しては努力していくことで、その子にとってよりよい勉強方法やがんばり方を見出していきたいと思っています。10勝0敗の華麗ですが脆弱な勉強法よりは、100勝100敗の泥にまみれたからこそ力強い勉強法を鍛えていきたいと思っております。そのような歩みの場としての嚮心塾に、興味を持っていただけると本当にうれしいです。                 2008年10月3日
 
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