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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

2022年度入試結果(決定版)

  2022年度入試結果     3月31日現在

<大学受験>(国公立大学)
大阪大学医学部医学科                  1名(進学先・第一志望)
東京大学文科2類                    1名(進学先・第一志望)
東京工業大学物質理工学院                1名(進学先・第三志望)
東京農工大学工学部機械システム工学科          1名(進学先・第一志望)
筑波大学情報学群知識情報・図書館学類          1名(進学先)
横浜国立大学理工学部数物電子情報系学科         1名

<大学受験>(私立大学)
日本大学医学部医学科                  1名(進学先)
杏林大学医学部医学科                  1名(進学先)
慶應義塾大学法学部                   1名(進学先・第一志望)
慶應義塾大学理工学部                  1名(進学先)
明治大学政経学部                    1名(進学先)
武蔵野大学薬学部                    1名(進学先)
日本大学危機管理学部                  1名(進学先・第一志望)
明海大学歯学部                     1名(進学先)

(進学先以外の合格校)<共テ利用での合格はカウントしていません。>
慶應義塾大学医学部、埼玉医大医学部、岩手医大医学部、防衛医大(1次合格)、日本医大医学部(1次合格)、杏林大学医学部(1次合格)2名(うち1名進学)、獨協医大医学部(1次合格)、聖マリアンナ医大医学部(1次合格)、愛知医大医学部(1次合格)、慶應義塾大経済学部2名、慶應義塾大商学部、早稲田大政経学部、早稲田大商学部、上智大理工学部情報工学科2名、東京理科大工学部情報工2名、東京理科大理工学部機械工、明治大学商学部、明治大学経営学部、明治大学理工学部

<高校受験>
國學院高校                       1名(進学先・第一志望)
明星学園高校                      1名(進学先・第一志望)
都立杉並高校                      1名(進学先)

<中学受験>
学習院中等科                      1名(進学先)

大学受験生16名(うち国公立受験生10名、医学部受験生6名)、高校受験生3名、中学受験生2名での結果です。彼ら彼女らがこの1年を真剣に悩みながらも頑張った結果ですので、どの受験生のどの結果にも誇りを持っています。
            
                   2022年3月10日 嚮心塾塾長 柳原浩紀

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経歴詐称は本当にまずいのか。

国公立大学の合格発表もいよいよ今日から始まりました。どのような結果であれ、一人一人の受験生が一年頑張った結果です。最後まで見届けていきたいと思います。

さて、先日塾生と話していて、一般企業に就職するためだけではなく、お笑いとかミュージシャンとか別のジャンルのプロを目指すときにも(このように出身大学が過剰に注目される社会においては)「売り」や「引き」になるのでは?という話をしたときに、「でもそんなのウソついちゃえばいいじゃーん!」という意見が出ました。その道でプロとして実力があれば、学歴とか他の要素なんて問題にならないわけで、それなら盛り盛りのウソをついて、まずはそれできっかけを作って、それから実力で認めさせる!という戦略はどうなの?という話になりました。

そこで、昔の佐村河内守さんのゴーストライター騒ぎの話を紹介して、それで大きく問題になったとき、何が問われていたのかを僕なりに次のように話しました。

たとえば音楽であれ、お笑いであれ、あるいはラーメン屋さんであれ、微妙なクオリティの差をしっかりと区別できて、その上でよりよいものを選ぼう!という鑑識眼を持っている人というのはそもそも全体のお客さんの3%にも満たないと思います。だとすると、残りのお客さんは何に対してお金を払ってその人やお店のファンになるのか、といえばそれは「ストーリー」に対してお金を払っているんだよ、と。たとえば佐村河内さんが耳が聞こえようと聞こえなかろうと彼(が新垣隆さんとともに)作った音楽のクオリティはほんの少しも変わらないわけです。しかし、そこに「耳が聞こえないのにこんな素晴らしい交響曲を作るなんて!」というストーリーを我々は信じ、そこに勝手に感動してはお金を落とすわけです。

もちろん佐村河内さんのようにそれが嘘?なのだとしたら、それはモラルとして問題だ!というのはそのとおりです。しかし、ではなぜ我々は盲目のピアニストを他のピアニストよりも評価し、ビジネスを成り立たせるのか。もっと素晴らしいピアニストがいたとしても、その人の受ける評価よりは盲目のピアニストの方が経済的には成功するでしょう。それはすなわち、私達が音楽そのものの質などはほとんどわからず、ただそのような感動的ストーリーに対してお金を払っているからなのではないでしょうか。だからこそ、そのような感動的ストーリーが嘘だとわかれば、ちょっと異常なくらいに激怒して「騙された!!!」と大騒ぎする。しかし、それは騙す方も悪いのはもちろんとして、騙される側にもクオリティを求める
ことのできない自分のリテラシーの低さを棚に上げては感動的なストーリーを求める卑怯さがあるようにも思います。(最近の乃木坂の新しいセンターの子が活動自粛に追い込まれてしまったのもそれですよね。いかがわしい個別撮影会なんかやってたんて、乃木坂という「清純派アイドル」にふさわしくない、というみんなの幻想を守るために徹底的に叩かれてしまう。あの子に何かしら非があったわけではないのにもかかわらず、です。)

そのように経歴は、幻想・イメージを作り出し、その幻想を信じたい人々がそこにお金を落とす。だからこそその幻想を裏切るような事実が発覚すると、途端に手のひらを返して徹底的に叩かれてしまいます。芸能人の方は常にこのような危険性に晒されているわけで、本当に精神的に追い詰められやすい職業だと思います。ただそれは芸能人だけでなく、たとえば飲食店から塾業界もそうですし、「聖職者」なんて扱われている学校の先生とか、全ての職業について多かれ少なかれあてはまることではないかと思います。

問題は、私達の社会は大きすぎて、一つ一つの分野についてそこにいる各々のプレイヤーのクオリティを吟味する能力が追いつかない、ということです。たとえばピアニストの実力にはクオリティを見抜く目を持った人々も、ラーメンの味にはそれが使えないかもしれません。そのように生きていく中で関わるあまりにも多くのジャンルについて、一つ一つのクオリティを見抜く目を鍛える、ということ自体が、世界一賢い人であったとしても実現困難なほどに、我々は様々なジャンルと関わらざるを得ない世界に生きていて、遠くウクライナやシリアの事実を知ることができてしまいます。それは進歩であるとともに、吟味をするだけの知識も能力もない対象が更に増えていく、ということであり、結果としてしゃべりのうまいだけの芸人さんが自分の不勉強な意見を垂れ流したり、強気な態度やバカにした態度で相手を「論破」できるように振る舞える、無定見の人物がテレビでは論客であるかのように重用されます。それは、この広い世界の様々なジャンルについてなんにでもそれなりに聞くに値する意見を言えるような「知の巨人」的存在はもはや不可能であるのにその役割をテレビは(番組制作の手抜きから)求めるからこそ、「そのように振る舞った者勝ち」になってしまっているのだと思います。

そのジャンルについてクオリティのわからない自分の不勉強さを隠すために、ストーリーや経歴に幻想を抱いては自分の好みを語ることで、あくまで自分に何らかのtastesやvaluesが存在しているかのようにこの社会の中で振る舞おうという恥を知らない我々の態度が、しかしそれがあくまでちゃんと選ぶことのできる「目」や「耳」に基づいたものではないからこそ、そのような幻想を信じて騙された自分は被害者であるかのように憤り、徹底的にそのような経済社会の中での欺瞞に対して攻撃的になる。そして、その「欺瞞」を暴くような週刊文春的な暴露こそが権力として機能する。このような不健全な社会において、経歴詐称は必ず訪れる崩壊への準備にすぎなくなってしまいます。もちろんこの崩壊は、決して悪ではないのに、です。

という話を塾生に(もう少し噛み砕いて)した後に、さて、その「幻想」の中で一番強固なものが君達が今必死に求めている「学校歴」なのだよ、という話をしました。大学に進学する、ということはそれが有名大学であればあるほどに世の中から「優秀な人」として見られるという幻想に頼って生きることになってしまうということです。その世間の「幻想」をうまく利用して自分が経済的に成功するぜ!と割り切って死ぬまで立ち回れるのなら(つまらない人生だとしても)まだ精神衛生上健康を保てるのですが、多くの卒業生は「これは本当に自分の力なのか?」と悩み、そして人々の幻想にすがって生き続けることに疑問を感じます。だからこそ、その「身に合わぬ袈裟」としての学校歴から離れた自身のクオリティを鍛え続けていけるように、卒塾生には頑張ってもらいたいと思いますし、それはまた、僕自身が今もまだ悩み、努力し続けざるを得ない理由でもあると思っています。人々の幻想に甘えた偽物としての自分を、少しでも本物へと近づけるように、日々努力していきたいと思います。

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