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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

教育に必要なもの

ご無沙汰をしております。

連休中に、下の娘の自転車に乗る練習をしたところ、たった二日ばかりで乗れるようになりました。
こういうものはタイミングが難しく、去年練習したときには何回練習してもなかなかうまくいかなかったために、
途中でやめたのですが、今年は彼女自身のやる気が違って、僕が「こうした方がいい」というアドバイスを懸命に聞いて取り入れては練習していて、2日といっても合計で3時間くらいの練習ですいすい乗れるようになりました。子供の成長の早さに驚くとともに、やはり何事にもその子の中で育ってくるものを待たねば教育というのはうまく行かないのだ、ということを改めて実感させられました。

もちろん、適切な時期を待つ、というのにも様々な姿勢があります。ただ黙って、その子の成熟を待っていても、何も考えずに周りに依存している子供達は、その依存がいつかできなくなるということをイメージできないままかもしれません。なので、そのような状況の説明、刻一刻と自立を迫られる時期が近づいている中で、親の庇護がまだ可能なうちに、一人で生きられる力をつけねばならないということを説いていくことは重要です。

しかし、そのように繰り返し説明していても、本人に自分の力で生きていこうという意志がないうちは、自分に必要のないことをやれ、と言われているようにしか聞こえません。教育の本当に難しいところは、その子の内部で自覚が育つのを待たねばならない、というのは当たり前だとしても、その子の段階、あるいは状態によって、どのように待つかを絶えず考えては一番ふさわしい態度で接していかねばならない、ということです。自分の力で伸び始めた若い芽には、今までに与えられたあらゆる叱咤激励が自分の頑張らねばならない理由として、強く後押しをしてくれるものになるでしょう。しかし、まだ自分で芽を出そうとしていない芽にとっては、そのような山のような叱咤激励は、芽を出す前に腐ってしまう原因ともなります。かといってただ放っておくだけでは、そもそも自分が芽を出して茎を伸ばし行かねばならないこともよくわからないままに、ずっと休眠していることになるでしょう。このようにその子の発達段階や状態に応じて、全く異なるアプローチが必要になります。単純に「その子の自発性ののびゆくのを待つ」と言っても、待ち方にも様々なものがあり、そしてそれは(先ほどの植物の芽のたとえでは言い表せないほどに)刻一刻と一人の子にとっても必要なものが変わってくる訳です。教師はそれを懸命に見抜こうとし、一人一人に今必要なことを考えては提示していかねばなりません。そこが、教育と訓練の違いであると言えるでしょう。

僕は正直、これほど難しいことをよく皆が平気でやれているな、と恐ろしくなります。マンガ『鈴木先生(武富健治さんの作品です)』を僕は本当にすばらしい作品だと思いますが、主人公の鈴木先生はスーパーマンではない教師の等身大の人間としての悩みが描かれつつもやはり、その教育姿勢はスーパーマンのような教師です。教師が子供達の誤解をうけ、悩みを踏みにじり、心を傷つける、ということをどこまで慎重にやっていこうとも、それが完全に成功して子供達から信頼される、ということはまず無理でしょう。しかし、教師は子供達の期待も裏切らねばなりません。彼らが抱えている真っ当な主張や悩み、疑問に誠実に答えた上で、しかし彼らの考えの足りないところ、努力の足りないところについては理解し、反省していってもらわねばなりません。

教師とは、子供達を適切な時期に適切な見守り方で見守ることができず、つい感情的になってしまう親達から守りながらも、その上で子供達の「この大人は自分を甘やかしてくれる」という期待を裏切っては、自分自身で何らかの道で生きていけるように自己を教育していくことを教える、という意味で子供達の(自分勝手な)期待を裏切らねばなりません。その意味で、教師は孤独です。端的に言えば、子供を味方にするだけの教師も、親を味方にするだけの教師も、その教育者としての責任を果たしていない、といえるでしょう。

そのように、どちらの立場にも与(くみ)しない「孤立点」として生きながら、しかし、どちらからも理解されないことに倦み疲れるのではなく、一人一人の子に今必要な問いかけや投げかけ、あるいは待ち方について謙虚な気持ちで虚心坦懐に探求していく、ということがどうも教育には必要であるようです。

全く大変なことです。これだけ難しく、コストがかかるものをなぜ人間が必要とするかについては、以前にちょろっと書きました(「教育という行為の存在する意味」エントリ参照)。精神の自由、学問の自由を担保する、ということにどれだけコストがかかるのかを探求しては、強制ではない成長へとつながる道をしっかりと残していけるように、引き続き全力で教えていきたいと思っています。

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