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嚮心(きょうしん)塾日記

西荻窪にある、ちょっと変わった塾です。

絶望に直面し続けるために。

昨日も本当に様々なことがありました。
明けて、今日国公立大学の入試です。今まさに、皆が懸命に解いているところです。

この前期試験にくるまでに、様々なことがありました。一人一人をとっても、様々なことがありましたし、
さらには嚮心塾では他の人の不幸や苦しみを、自分とは関係がないと言えない生徒が多い以上、この塾で勉強する、ということはただ勉強だけではなくいろいろなことを考えざるを得ない一年となります。

そのような中で、最後まで努力し抜いた彼ら、彼女らが最後の勝負を今日明日と迎える訳です。
もちろんやれるだけのことは徹底的にやってきたつもりですが、それでもこの二日間は
しっかりと応援し続けたいと思います。

それとともに、受験をするというのは不合格を味わう、ということです。どこも落ちずに第一志望に合格する生徒など毎年一人二人いるだけでしょう。あるいは第一志望以外すべて落ちて、第一志望に合格するならまだしも、どれもうまく行かずに不本意なもう一年を強いられる子もいます。全員合格を建前でなく本気で目指しているとはいえ、僕の力が足らずにそのような失敗をしてしまう受験生も毎年います。

しかし、そのような状況に置かれてからが勝負です。絶望的な状況を前にして、絶望するかどうかは、自分の心一つの問題です。絶望的な状況が目の前に100あろうと、1億あろうと、そこで自分が実際に絶望して努力をやめるかどうかは、純粋に自分の選択の問題であり、意志の問題であるのです。そこには何ら因果関係はありません。

人間が自然法則、生物学的法則にいかに支配されているかを強調することは、自らの自然に対する立場を思い上がっては勘違いしている人間にとって一つの教訓とはなるものの、一方で様々な因果法則を意志にまで及ぼすという誤りを犯しがちです。しかし、意志は自由であるのです。どのように絶望的な状況に直面し続けようとも、自分がその状況において絶望するかどうかは少なくとも自明のことではありません。であるからこそ、「絶望的状況」において絶望する人は、絶望することを自らの意志で選んでいるのだと言えるでしょう。たとえ、その「絶望的状況」が他者と比較して、あるいは自身のこれまでの人生と比較して、比べ物にならないほどに絶望的であろうと、そこから自分がどうするかは、自分自身の意志にゆだねられています。

魯迅がよく引いた「絶望の虚妄なることは、希望がそう(虚妄)であることと同じだ。」という言葉に僕は若い頃、よく励まされてきました。今、僕がこの言葉を言い換えるならば、「絶望ということが心理的な事実としてはあるとしても、あるいはそれを自分の環境へと投影した情景としてはあるとしても、それは自らが自らの心理を投影して描いた一つの世界像にすぎない。」ということでしょうか。

しかし、私たちは残酷なほどに、自由であるのです。絶望に浸っている間に次の絶望の種が襲いかかるほどに、自由であるのです。だからこそ、絶望的な状況に接してそれでも自分が絶望せずに前を向いて戦えるかが、絶望的状況しかないこの世界においては、常に問われていると言えるでしょう。

受験など、たいしたことではありません。大学受験が一生を左右するという脅し文句も、ある意味では正しいでしょうが、そういう面もあれば、そうでない面もあります。少なくとも受験に関わる職業に就く我々は、受験至上主義にならないように視野を広くとる必要があるでしょう(この業界の利益の追求が、真理の探究を妨げるからです。)。しかし、受験を通じて絶望に直面するという機会を擬似的にでも経験できること、そしてそれへと立ち向かう姿勢が問われる、ということは一人一人のこれからの人生にとってこの上ないgiftであるのではないか、と思っています。

今日も明日も、塾生たちが必死に頑張っても、でもうまくいかないことだらけでしょう。特に今日の夜は毎年修羅場です。
合格していった受験生達も何人も「今日のテストでもう落ちることが確定してるから、やめて帰りたい」という弱音を吐いてきました。しかし、最後まで戦い抜いてほしいと思いますし、全力でそれを支えていきたいと思います。自分の無力さをどんなに痛切に感じては絶望的状況に陥ろうとも、その持てる力で頑張るしかない、という状況こそが人生の縮図なのですから。

絶望的状況において、絶望するという選択肢を選ぶのはあくまで自分の意志でしかないということ、絶望的状況故に絶望するという論理関係は少なくともこの世界においては成立していない、あるいは外的な観察による推論としてなら成り立つものの、事象同士の因果関係にはなりえない、ということを、最後まで伝えては励ましていきたいと思います。

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努力する、ということ。

今日は都立校入試、そして、いよいよ明日から国公立入試です。塾では最後の追い込みとともに、東京を離れて受験地に行っている受験生ともメールその他で最後の不安点をつめています。

先日、私立大入試の最中に一人の塾生をかなりこっぴどく叱りました。その子は高2のうちにしっかり勉強してきて、
力としては十分にあるのに、この土壇場になって「一つ合格したからもうがんばりたくない」という姿勢で、だらだらと受けては、それが不合格につながってしまっていました。

「ここで頑張らないと生きていけないぞ」という僕の言葉に、「頑張ってまで生きていたくない。それなら死にたい。」と話す彼女に、「生きているということは、あるいは少なくとも努力をすれば勉強ができるようになるだけの才能を自分が持っているということは、それを活かす責任があるということだ。それを努力するかしないかは自分の自由ではない。自分の義務だ。」という(まあよくある)話をした後、塾にずっと通ってくれている塾生のことを引き合いに出しました。

彼は自閉症で、しかしそれをものともしないくらい様々なことを努力して乗り越えてきました。その努力する姿勢には本当に頭が下がる思いで、そして実際に我々周囲の、彼を応援し、支えているつもりの人間ですら、「こんなにすごい結果を残すことができるとは!」と刮目させられ、どこかで彼の限界を心のうちに設定してしまったことを、何度も反省させられてきました。

その彼も、大学を卒業し、就職をする段になって、本当に苦しんでいます。僕は彼よりも努力をする人間を知りません。東大や医学部に合格していった数々の塾生も、彼ほどの絶望的な努力を、しかしたゆまずに続けている人間ではありませんでした。みんな彼に比べれば、その努力にいくらでも甘いところがありました。いや、僕自身もまた、彼に恥ずかしくないような努力が日々できているかといえば、もちろん恥ずかしくないような努力をしようともがいてはいるものの、決してできていないのが事実でしょう。僕はそれを、本当に恥ずかしく思います。彼は僕の生徒ですが、努力をする、ということに関しては彼は僕の師匠です。

しかし、そんな彼もコミュニケーションが極端にできないという理由で、ほかのすべての美質、何よりその絶望に立ち向かい努力し続ける姿勢など何一つ評価されずに、社会からまだ評価されていません。この社会は明らかに評価基準を誤っている。彼を評価できず、僕やその他ちょっと小器用なやつが評価されるような世の中など、全く間違っている訳です。

しかし、彼はそんな中でもくさらずに、自分が努力してできる部分はないかを常に虚心坦懐に探している。

そのような彼に対して、君はそれで恥ずかしくないのか、という話をその受験生にはしました。
「心に刺さる」と嫌な表情をしていたので、少しは伝えられたのかもしれません。

自分が努力した結果を誇る前に、自分が努力をできる環境にいたこと、努力をすれば鍛えられるだけの能力があったこと(これはabilityがあった、というだけでなく、disability(と思われているもの)がなかったということも含みます)を考えれば、それは伸びるべきものを伸ばしただけで、何一つ誇れるものではありません。ただ、少しは責任を果たした、というだけです。しかし、自分が社会の中で生きていける程度の努力では、何一つ世の中などよくなりはしません。あるいは、自閉症の彼のように、とてつもない努力を重ねても、世の中からは評価されていない人がいることを理解することもできないでしょう。アメリカ合衆国で有色人種や女性に対するaffirmative actionに対して、最も厳しい見方をするのは自分で努力して社会的地位を得た有色人種や女性であることは有名ですが、人は自分のおかれた状況をすべてであると思いがちです。
自分が乗り越えてきた困難こそが困難であるとも。しかし、多くの人々にとって、そのような困難は、さして困難ではない。そのことを強く自覚して、その事実、そのような世界の中に自分が存在するという事実とどのように立ち向かっていくか、を考えることが、大切なのではないでしょうか。

今日の高校入試も、明日の国公立大学入試も、一人一人にとっては大きな試練です。しかし、それを乗り越えたからといって、一人一人の人生が何か肯定される訳ではありません。それは様々なラッキーが重なった中で、そのラッキーを逃さぬような努力はできた、というだけのことで、他人に誇れるほどのことでもありません。そのことを、彼と机を並べて勉強する嚮心塾の塾生達は学ぶことができるわけです。

そのような、本当に存在してくれることがありがたい彼が、少しは評価できるような社会に、あるいは少なくともそのような会社が増えるように、あるいはそれを理解できる消費者が増えるように、少しでも努力し続けたいと思います。

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